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VIDEO-ITを取り巻く市場と技術

2007年9月27日掲載

第6回 GCTの誕生とMPEG

画像コーデックが脚光を浴びはじめた1986年ごろ、当時のアスキーの西和彦社長と藤原洋さん(現IRI所長)が日立に来られ、新しい技術開発の会社設立に一口乗らないかという話を持ってこられました。

内容は当時の通産省と郵政省が共管でスタートしたばかりの「基盤技術研究開発促進センター」出資事業で、テーマは「次世代画像コーデックの開発」でした。藤原さんが書かれた提案書には、低ビットレート対応画像コーデックの開発、画像コーデックLSIチップセットの開発などが盛り込まれ、非常に興味深いものでした。日立では私がTV会議システムなどに関係していたことから取り纏め役として指名され、早速社内で関係者を集め対応を協議することになりました。関係者から映像・画像のディジタル化は今後大きく発展することが予想されるが、それを進める上でも社内ばかりではなく社外への多方面なアプローチが必要であるとの意見が大半を占め、この提案を前向きに捉えることになりました。結局日立はこのテーマに積極的に参加することとなり、出資に応じると共に研究者も出すこととなりました。

まずはアスキー主体で基盤技術研究開発促進センターと民間が共同で出資する研究開発主体の民間会社を設立することとなりました。結局、会社は1987年4月正式に発足し、会社の名称は「グラフィックスコミュニケーションテクノロジーズ(GCT)」となり事務所は青山に決まりました。出資はアスキー、日立の他に新日鐵、京セラ、三井物産、岩通、大倉電気が応じ、各社から出向者が集まり研究開発がスタートすることになりました。私は発足以来日立の代表として研究の推進、会社の運営に関ってきました。

日立は画像コーデックのLSI開発を担当することになり、半導体部門から応援がでてロジックの検討を開始しました。しばらくして藤原さんの提案で米国AT&Tと7 Baby Bellsの共同通信研究所であるBellcore(Bell Communication Research)と共同研究契約を結び画像コーデックのLSI化を加速化させることになりました。藤原さん始め日立関係者はニュージャージーのBellcore付近に居を構え研究を続けました。結局研究成果は日立の半導体部門で試作LSIとして製作することになりました。その後LSIの開発を中心とする会社GCL(グラフィックスコミュニケーションラボラトリーズ)が1993年設立されることになりました。

その後GCT/GCLは藤原さんを中心にMPEG標準化の活動に積極的に参加するようになりました。既にお話しましたようにCCITT(現ITU)ではTV会議のような動画システム間の互換性という観点から画像コーデックの標準化を進めていました。一方ISOは一般コンシューマに使われる装置、特に記憶装置などに映像・画像を蓄積したり、取り出したりするのに業界標準化が必要であると認識していました。丁度両標準化機関の抱えている課題が同じであることを認識し、世界の有識者が集まり団結して共通標準化を完成させることになりました。この結果がまさにMPEGです。

GCT/GCLは日本の委員としてこの標準化活動に参加し多大な成果をあげました。さらに1994年から始まったMPEG普及の国際的組織DAVIC(Digital Audio Visual Council)の日本事務局を引き受け、様々な業界に対しMPEGの活用を促しました。アスキーから1994年に出版された藤原さん監修の「最新MPEG教科書」と翌1995年に出版された「実践MPEG教科書」は、当時絵が多くMPEG活用が理解しやすいと評判でした。この本ができたのには藤原さん始め関係者の多大な貢献があったからだと思います。

      最新MPEG教科書 実践MPEG教科書
書名:ポイント図解式 最新MPEG教科書(左)、ポイント図解式 実践MPEG教科書(右)
著者:藤原洋 監修/マルチメディア通信研究会 編
発行:株式会社アスキー

さてMPEG標準化活動においてイタリアのキャルリオーネ氏と日本の安田浩氏の貢献は大きかったと思います。キャルリオーネ氏は標準化委員会の代表で特にCCITTとISOの調整に尽力されました。安田さんはNTTの研究所が長くもっぱら画像圧縮技術の基礎研究に功績を残されました。安田さんはこれらの功績を称えられ1996年に米国のテレビの普及に貢献した人に与えられる"エミー賞"を受賞されました。私は"エミー賞"は人気のテレビ番組に授与されるものとばかり思っていましたので、このような技術も受賞の対象になることを始めて知り大変驚きました。

安田さんはNTT退職後東大で教鞭をとられ今年2007年春に退官されました。丁度、評論家の立花隆さんが安田さんのMPEG誕生のエピソードを記事にしていますので、興味ある方はお読みください。
URL: http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/070302_imaging/

(コラム記事/ (株)アイ・ビー・イー 坂井 裕)

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