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VIDEO-ITを取り巻く市場と技術

2007年8月30日掲載

第5回 画像コーデックの開発

1986年頃から画像コーデックの標準化の動きが少しずつ騒がれるようになってきました。ちょうどその時NTT担当営業から「NTTで画像コーデックの入札案件があるがトライしてみるか」との問い合わせがあり、関係者で検討することになりました。当時NTTには数種類の入札制度があり、この件は技術審査中心のものでした。つまり価格よりNTTが決めた仕様のものを応札者が充分理解し製作できる能力があるかどうかを審査されるものでした。価格は二の次というわけです。日立は当時画像コーデックの研究開発は遅れていたので、今さら後発組が応札しても負けるだけだという意見もあり、対応が紆余曲折しました。

NTTの入札仕様書では当時主流であった"ベクトル量子化方式"がベースとなっていることがわかりました。日立の研究所にたまたま画像コーデックを勉強していた研究者がいて、彼はよく世の中の状況を知っていました。彼によると"ベクトル量子化方式"はM社始め日本の先発メーカが一生懸命研究しているが、世界的には"直交変換方式(DCT:Discrete Cosine Transform)"が主流になりつつあるので、そちらに重点を置いた方がいいのではないかという意見でした。営業はそれでは負けてしまうから困る、何とか仕様書通りの提案にしてほしいと主張し、なかなか結論が出ませんでした。結局最後研究所の幹部も交えて議論した結果、今回はだめもとでいいから"直交変換方式"で提案してみようということになり、私は仲間と夜を徹して提案書を作りました。

数日して営業から結果が知らされました。案の定、不合格でした。やはり合格はM社始め数社の"ベクトル量子化方式"に力を入れていた企業でした。しかし日立はこれがきっかけで画像コーデックの研究開発に力を入れるようになり、未だ世界標準が決まっていなかったにも拘わらず"直交変換方式"の画像コーデックを他社より早く出そうと皆一生懸命になりました。

後日、NTTの関係者に「NTTは何故世界標準を待たずに急いで画像コーデックを入札したのか」と聞いてみました。彼は「次の年1987年ジュネーブで開催される"Telecom87"(Telecomは4年に1回開催される通信の世界的コンベンション)にNTTはどうしてもTV会議を展示したかった。そのために当時安定していた"ベクトル量子化方式"の画像コーデックを入札という方式で購入せざるを得なかった」と説明してくれました。これを聞いて私はNTTの裏事情がよく理解できました。

1987年11月私はジュネーブのTelecom87に行ってきました。世界中の企業が様々な画像コーデックを展示し実演をしていましたが、方式はまちまちでした。

間もなくしてCCITT(現ITU)で世界標準化活動が進み、数年後"直交変換方式"をベースとした通信画像符号化方式H.261が採用されました。これがMPEGの原型になるわけです。

(コラム記事/ (株)アイ・ビー・イー 坂井 裕)

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