私とマルチメディアVIDEO-ITを取り巻く市場と技術MXFラボ

TOP
TOP > MPEGラボ > 第19回

WinPCLabs Webの動画を速く、きれいに!“コーデック”

2004年1月号掲載

第19回 開始目前の地上デジタル放送 PCでの視聴・録画は可能?

2003年12月1日から、いよいよ地上デジタル放送が開始となる。今回は、まとまった情報が意外に少ない地上デジタル放送の仕組みを解説する。地上デジタル放送の映像はすべてMPEG-2 TS形式で配信される。このMPEG-2データをPCで視聴したり録画したりできるのかについても考察しよう。

地上デジタル放送は、UHF帯を利用したデジタルテレビ放送だ。従来のアナログ放送よりも、同じ帯域で多くのチャンネルを送信でき、データ放送や双方向サービスなどが提供できる。

地上デジタル放送の基本的な仕組みは、BSデジタル放送とよく似ている。地上デジタル受信用のチューナー装置であるSTB(Set Top Box)の基本構成図は図1の通り。CAデスクランブルモジュール以降はBSデジタルとほぼ共通に使えるように設計されている。

地上デジタル放送では、1チャンネルを分割して複数の映像を放送したり、音声放送やデータ放送、携帯機器などに向けにも放送することになる。ハイビジョン(以下HD)解像度の場合、1本の映像で1チャンネル帯域の大部分を占める。このため、HD解像度放送では複数本の映像を送ることはできない。しかし、従来の放送と同じSD解像度ならば、2〜3本の映像を同時に送ることができる。

このように、1チャンネルを用途によって有効利用できるが、使用する周波数は従来から使われているUHFだ(当面デジタル放送には、30チャンネル以下のチャンネルが割り当てられる)。従来のアナログUHF放送のチャンネルと競合することになる。このため、従来のアナログUHF放送の一部のチャンネルを変更し、デジタル放送用に空ける作業が必要となる。これが「アナ-アナ変換」と呼ばれる作業だ。
この作業には時間がかかるため、2003年12月時点で、地上デジタル放送を見ることができるのは、ほんの一部の地域だけということになる。

デジタル放送では、すべての映像・音声・データがMPEG-2 TS形式で送られる(図2)。MPEG-2 TS形式は、すべてのデータを188バイトのTSパケットに分割する。それぞれのTSパケットはTSヘッダを持ち、13ビットのPIDと呼ばれる番号で、TSパケットの種類を識別する。例えば、100番はビデオパケットで、101番はオーディオパケット、という具合だ。

■すべてのデータはMPEG-2 TSで送られる

デジタル放送では、EPGと呼ばれる番組表や、データ放送のためのBMLデータ(HTMLと同様のスクリプト)など、さまざまなデータがTS形式で伝送される。これらのデータはすべてPIDで区別される。

どのPIDのTSパケットが含まれるか、という情報はPSIと呼ばれるTSパケット群で送付される。MPEG-2 TSデマルチプレクサは、まずPSI情報を解釈し、その中からビデオ、オーディオやそのほかのデータのPIDを取り出し、分離する。

データ放送のBMLファイルやEPGデータは、同じ内容を一定間隔で繰り返し送信する。これは、ハードディスクを持たないSTBを考慮した仕掛けだ。カルーセル(回転木馬)方式と呼ばれる。しばらく待っていれば、視聴者が必要とするデータが必ず放送されるという仕組みだ。ただし、この待ち時間をあまり長くできないため、データ放送のデータサイズは大きくできない。

■ハイビジョンMPEG-2ビデオ

地上デジタル放送は、BSデジタル放送より使える周波数帯域が狭い。BSデジタル放送では20Mビット/秒程度で、MPEG-2によるHD解像度放送が運用されている。地上デジタルの場合、HD解像度の場合でも15Mビット/秒か、それ以下の帯域しかない。ただ、地上デジタル放送はBSデジタル放送より3年後に開始となったもの。この期間のMPEG-2エンコーダの進化により、帯域が狭くても、従来と同等の画質を達成できている。今後さらに画質が向上した際でも、受信機、つまりMPEG-2デコーダは従来品が使えるはずだ。

日本のHD解像度放送の場合、ほとんどが1920×1080ドットか1440×1080ドットとなる。どちらの場合も、画面上はアスペクト比16:9として表示される。ハイビジョン対応ブラウン管を除けばプラズマテレビや液晶テレビも、この解像度を持つものはまず存在しない。これらのテレビの実際の解像度は高いものでも1280×720ドット程度なため、実際は縮小表示していることになる。

■PCでの視聴・録画は可能になるのか?

最後に、PCで地上デジタル放送の受信再生や録画が可能かどうかについて検討しよう。映像や音声はMPEG-2 TSデータとして放送されるため、そのままHDDに保存すれば、画質・音質を劣化させることなく保存できる。デジタル放送の受信再生は技術的には可能なのだが、実際は著作権保護などの課題があって簡単ではない。

デジタル放送では著作権保護のため、コピーしてよいかどうかを示すフラグ情報をMPEG-2 TSデータの一部として送信する。いくつかのフラグがあるが、代表的なフラグは以下のデジタルコピー制御情報だ。

制御情報 意味
00 制約条件なしにコピー可能
10 1世代のみコピー可能
11 コピー禁止

例えば制御情報が10となっている場合、受信した放送データを一度蓄積することのみ許可される。蓄積した放送データのコピーを別に作ることは許可されない。ハードディスクにいったん保存して、DVD-Rに書き出すといった使い方は禁止される。ただし、コピーではなく、データを移動することは許可されている。DVD-Rに書き出した後、ハードディスク上のファイルを削除すればよいわけだ。

デジタル放送の受信装置は、このコピー制御情報を厳密に取り扱わねばならない。しかしながら、現在のPCには抜け道がたくさん存在し、厳密に「コピー禁止」を実現することはかなり難しい。

PCのファイルとして保存した場合、コピー禁止のためには暗号化する必要がある。かつ、そのPCでしか再生できないようにする仕組みも必要だ。再生する際に暗号を復号した結果を、どんな道具を使ってもデジタルデータとして取り出せないようにしなくてはならない。

こうした著作権保護の仕組みが確立するまでの間は、MPEG-2 TSデータをそのまま保存する形をとることは難しい。当面は、デコードしてビデオ信号に戻した後、再びMPEG-2にエンコードする形式の製品が主役となりそうだ。

●地上デジタルSTBの基本構成

図1 地上デジタルSTBの内部構成図。UHF信号は、チューナー、復調回路によりMPEG-2 TS信号となる。暗号化されている場合は、CVデスクランブル回路で復号し、HD解像度(1920×1080ドット)のMPEG-2デコーダを通して、映像となる。チューナーや復号回路以外はBSデジタルSTBと共通の回路で構成できる。

●MPEG-2 TSデータの基本構造

図2 ビデオ・オーディオだけでなく、EPGなどの番組情報やデータ放送など、すべてのデータはTSパケット単(188バイト)に分割されて送られる。TSヘッダにあるPID情報で、そのTSパケットの種類を識別する。

 

(文/ 竹松 昇、(株)朋栄アイ・ビー・イー) ※編集の関係上、雑誌掲載内容と少し異なる個所があります。
製品・システム・技術に関するお問い合わせ