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WinPCLabs これでわかった!動画の秘密“MPEG”

2002年6月号掲載

第11回 最新MPEGボードの注目機能「3次元Y/C分離」の仕組み

カノープスの「MTV2000」はTVチューナーを搭載するMPEG-2エンコーダPCIボードだ。テレビ放送を受信しMPEG-2形式で録画保存できる。MTV2000では、従来機の「MTV1000」に新しい回路「Triple 3D Video Processor」を追加した。これは、画質改善のための機能をいくつか複合した回路だ。デジタル3D Y/C分離、3Dデジタルノイズリダクション(3DNR)、デジタル3Dフレームシンクロナイザーといった3つの3D機能を搭載していることから、この名前が付けられた。MTV2000の場合、これらの機能は、松下電器産業のフレームシンクロナイザーチップ「MN673794」で実現している。MTV2000には、NECのゴースト消去チップ「μPD64031A」も搭載されており、テレビ受信時に影のようなゴースト信号が発生した際に、これを除去する機能がある。

■MPEG-2エンコードにおける入力処理の重要性

3次元Y/C分離機能やノイズリダクションなど入力時の画質改善処理は、MPEG-2エンコード時に重要な処理となる。MPEGのエンコード処理は非可逆圧縮処理のため、高いビットレートで圧縮しても元の映像より画質が良くなることはない。従って、エンコード時の信号をなるべく良い状態にしておく必要がある。MPEG-2でエンコードする場合、フレーム間の差があまりないことを利用して圧縮する。映像が複雑な場合、動きが激しい場合は情報量が大きくなり、圧縮率を上げようとすると、映像情報を省略せざるを得なくなる。映像情報を省略すると、ぼやけたりして画質が劣化する。

MPEGエンコーダの入力ビデオ信号にノイズがあった場合、エンコーダはノイズもなるべく忠実に圧縮しようとする。映像上にノイズがあると、ノイズのためにデータ量が消費され、本来の映像圧縮に使えるデータ量が少なくなってしまう。使えるデータ量が不足する場合、映像情報を省略することになり、画質が劣化する。つまり、ノイズがあるビデオ信号をMPEG-2で圧縮すると、元のノイズの影響以上に画質が劣化するわけだ。ノイズを減らすことは、トータルの画質確保のために非常に重要となる。

Y/C分離の説明の前にビデオ信号の解説が必要だ。ビデオ信号を画面に表示するには同期信号、輝度信号(Y)、色信号(C)といった複数の信号が必要となる。これらの信号の伝送方法によって、ビデオ信号にはいくつか種類がある。代表的なものは、コンポジット信号(すべての信号を一本の線に多重して送る黄色いピンコネクタ)、Sビデオ信号(輝度信号と色信号を分けて送るミニDINコネクタ)などだ。プロ用ビデオの世界では、コンポーネント信号(輝度信号と2本の色差信号の合計3本)も使われる。

MPEG-2などのデジタルビデオでは、コンポーネント信号の形で圧縮する。RGB信号と比較すると、コンポーネント信号では、輝度信号の帯域を広く取り、色信号の帯域を少し狭く取る。RGB信号よりトータルの帯域幅は狭くなるが、人間の目は輝度に対する感度が高く、色に対する感度が低いため、見た目には違いは分からない。一方、圧縮処理上は、帯域幅が狭くなる分、有利となる。

なお、コンポジット信号と比較するとコンポーネント信号のほうが色信号の帯域が広い。画質としてはコンポジット信号よりコンポーネント信号のほうが良い。このため業務用のMPEGエンコーダにはコンポーネント信号入力が付いている。

■3次元Y/C分離回路でコンポーネント信号に変換

テレビ放送はコンポジット信号で配信され、チューナーからはコンポジット信号が出力される。上記の通り、MPEG-2圧縮のためにはコンポーネント信号に変換する必要がある。この処理がY/C分離と呼ばれるものだ。

コンポジット信号では、輝度信号上に色信号をアナログ的に多重している。これは、NTSC規格と呼ばれカラー放送が始まった時に既存の白黒放送用のテレビ受信機を混在させても問題ないように工夫したためだ。当時の真空管回路や初期のトランジスター回路で実現できるよう、巧妙に考えられている。色信号は3.579545MHzの周波数を中心に変調されており、フィルタ処理でこの付近の周波数を取り出すことで、色信号得られる。ただし、この方法だと輝度信号の上限が3.2MHz程度に制限されてしまい、クロスカラーと呼ばれる斜め線などの細かい絵柄で色のにじみが発生したり、色の輪郭で網目状のノイズが発生したりするドットクロールの原因となる。

コンポジット信号上では、上下の走査線で色信号の波形を正反対にしている。上下の走査線の色信号が打ち消し合うことで、色信号が輝度信号に与える影響を少なくするためだ。このルールを利用し、上下の走査線を比較することでより良いY/C分離を実現する、くし型フィルタと呼ばれる回路が使われている。くし型フィルタを使っても輝度が同じ色の水平境界線では色がにじんでしまう。

3次元Y/C分離回路は、上下の走査線だけでなく、前後のフレーム(コマ)の同じ走査線とも比較することで、さらに良い分離ができるようにするものだ。NTSC規格では、前後のフレームでも色信号の波形が正反対になるようになっており、このルールを利用する。このためには、前後のフレームを記憶するメモリーが必要になり、少し前までは非常に高価かつ大規模な回路になっていた。最近、ワンチップLSIになり簡単かつ安価に搭載できるようになった。3次元Y/C分離回路は、大型のテレビやプラズマディスプレイ、ビデオプロジェクターに搭載されている。

■フレームシンクロナイザーは家庭用VTRからの圧縮に効果

MTV-2000に搭載されているMN673794には、3次元デジタルノイズリダクション(3次元DNR)回路が搭載されている。3次元DNR回路は、前後のフレームの映像を比較して突発性のノイズを除去する回路だ。

MN673794には、このほかフレームシンクロナイザーが搭載されている。フレームシンクロナイザーは一種のビデオメモリーで、併せて搭載されているタイムベースコレクターの同期信号補正機能と共に映像信号のタイミングの乱れを補正する。これらの回路は、家庭用VTRの出力をエンコードする際に威力を発揮する。本来ずれていない前後のフレームが、家庭用VTRのメカ的な原因でずれて出力されることがあるが、MPEGエンコーダはこのずれも忠実にエンコードしようとして、データ量を消費してしまう。フレームシンクロナイザー回路は、家庭用VTRの出力する同期信号の微妙なずれを補正し、前後のフレームの映像が変にずれないようにする。この結果、エンコード後の画質を向上させることができる。

 

(文/ 竹松 昇、(株)朋栄アイ・ビー・イー) ※編集の関係上、雑誌掲載内容と少し異なる個所があります。
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